2022年5月13日

監督:樋口真嗣、企画・脚本:庵野秀明による映画「シン・ウルトラマン」が公開された。シン・ゴジラの樋口×庵野タッグが再び実現!とのことで企画段階から楽しみで仕方なかった作品。ネタバレありで感想書いていきます!

ネタバレ注意!

















あらすじ

次々と巨大不明生物【禍威獣(カイジュウ)】があらわれ、その存在が日常となった日本。通常兵器は全く役に立たず、限界を迎える日本政府は、禍威獣対策のスペシャリストを集結し、【禍威獣特設対策室】通称【禍特対(カトクタイ)】を設立。班長・田村君男(西島秀俊)、作戦立案担当官・神永新二(斎藤工)、非粒子物理学者・滝明久(有岡大貴)、汎用生物学者・船縁由美(早見あかり)が選ばれ、任務に当たっていた。禍威獣の危機がせまる中、大気圏外から突如あらわれた銀色の巨人。禍特対には、巨人対策のために分析官・浅見弘子(長澤まさみ)が新たに配属され、神永とバディを組むことに。浅見による報告書に書かれていたのは…

【ウルトラマン(仮称)、正体不明】

原点回帰

まず本作の最も特徴的な点は徹底された原点回帰だ。

冒頭のウルトラQ登場怪獣のオンパレードでは、当時同じ着ぐるみを流用していた怪獣は今作ではCGを流用し(シン・ゴジラ⇒ゴメス、パゴス⇒ガボラ)、ウルトラマンも成田亨氏によるカラータイマーのない初期デザインに準拠しているし、米津玄師による主題歌「M八七」も草案段階で決まっていたウルトラマンの出身地であるM87星雲が由来だろう(現在の設定であるM78は脚本の誤植で広まったとされている)。

舞台が現代日本とはいえ「あ、これはとことん原点回帰するやつだ」と想像していたけど、まさにその通りだった(流石に「カイゲル」はわからんて)。

好きなところ

・タイトルロゴと冒頭1分17秒

ウルトラQよろしくおどろおどろしい現代音楽のようなBGMとともに一瞬「シン・ゴジラ」のロゴが出たと思いきや、それを破り出てくる「シン・ウルトラマン 空想特撮映画」のロゴ。

この時点でマスク越しに気持ち悪いくらいニヤニヤしてしまった。そして本編開始0秒で出てくる禍威獣たち。最高すぎ。シン・ゴジラと違って多種多様な巨大生物が登場することをリズミカルに示すことによって、本作におけるリアリティラインの線引きをし、「前作とは違いますよ」と説明している。テーマパークに来たみたいだぜ。

・斎藤工

斎藤工が演じる主人公「神永新二」の、無機質なキャラクターの中にある不器用さが素晴らしい。本当にウルトラマンに見えてくるんだから凄い。

・にせウルトラマン(ザラブ)戦での変身シーン

ベーターカプセルのスイッチを押すと巨大な拳が神永を包み込んで、そのままウルトラマンへと変身する一連のシークエンス。今までありそうでなかったエフェクトで、鳥肌が止まらないレベルでかっこいい。

0:56~

・同・空中戦

平成ガメラ三部作の特技監督ともあり、やはり夜景をバックに繰り広げられるスピーディーな戦闘描写がめちゃくちゃ良かった。八つ裂き光輪(今思えば凄いネーミング)を喰らい、上空で発光しながら散るザラブはガメラ3のギャオス・ハイパー戦を彷彿とさせた。

・メフィラスこと山本耕史のシーン全部

居酒屋にて、おそらく特撮史に残るであろう「割り勘でいいか?ウルトラマン。」という名台詞からもう最高。”理性的だけど胡散臭いキャラ”を演じさせたら右に出る者はいない。その後の鷺巣詩郎氏による巨大メフィラスとの戦闘シーンのBGMも、エヴァ新劇から顕著な「クラシックとエレキギターのハチャメチャな融合」でもう最っっ高にかっこよかった。

・ゼットン戦

お待たせしましたぐんぐんカット。からの完全に「トップをねらえ!」な流れ。ベーターカプセルを二度点火したガンバスターは無敵だ!

気になったところ

一方で気になったところもいくつかあります。具体的に挙げると

・対ゼットン攻略の流れ

一度は敗れたウルトラマンと、一度は諦めた禍特対メンバーによるゼットン攻略法を獲得するまでの流れ。ご時世柄致し方ないのかもしれないけれど、VRによる国際会議の描写にイマイチ緊迫感を持てなかった…。まあ、そのシーンでの船縁と田村の「傍から見ると滑稽ね…」「本当に凄いことってそういうことかもしれないな」という会話はメタ的でこの映画そのものを象徴するようなセリフでかなり好きだけど。っていうか船縁もあまり見せ場がなかったような…。

・浅見弘子周りの描写・キャラ設定

浅見の尻を叩く癖や巨大化時のローアングル画角について、これは公開初日からSNSでいろんな意見があって、語るには避けては通れないかなと。個人的にもあまり好きではないなあと感じながら見てました。

ただ、「昭和のオジサンたちによる時代遅れの価値観」と断罪するには尚早だと思っていて(確かに必要性を感じないノイズではあったけれども)、令和という時代に初代ウルトラマンのリブートを行う上で、あの類の描写を全くの無意識に行うわけがないだろうと思う。個人的な印象に過ぎないが、おそらく樋口監督が「アニメ的キャラクター」を演じさせたかったのだろう。現に浅見の言動は働きマンの松方弘子エヴァのミサトorアスカとの類似性も指摘されているし、尻を叩いて気合を入れる癖や「多忙すぎてお風呂に入れない」等のセリフ回しも妙に深夜アニメ的だ。

まあそれが不快に感じる人もいるので、我慢して受け入れろという話ではないが、本作が、リアリティをベースに虚構を散りばめハイレベルに昇華した「シン・ゴジラ」と明確に異なる、よりフィクショナルな空想作品であることを示すエッセンスの一つだと解釈した。今思えば次々と禍威獣と外星人が出現し矢継ぎ早に進行するストーリーは30分アニメを繋ぎ合わせたような構成だったし。

まあでもやっぱり、要るか要らないかで言ったら要らないかな…。

・日本の特撮復権を庵野に背負わせすぎでは問題

シン・ゴジラ、シン・エヴァンゲリオン、シン・ウルトラマン、シン・仮面ライダーの四作品を「シン・ジャパン・ヒーローズ・ユニバース」としてあらゆる商品やイベントを水平展開するプロジェクトが発表された。日本の古き良き特撮作品を現代に沿う形でリメイクすることで、古参から新規までレンジの広いファンダムを形成できつつあって、それ自体は一時期の特撮氷河期を経験した側としてはとても素晴らしいことであるが、どうしても庵野頼みになっていないか?と感じてしまう。

エヴァ新劇場版の企画段階から庵野は「エヴァンゲリオンをガンダムのようにあらゆるクリエイターが制作するシリーズものにしたい」という旨の発言をしていた。しかし、一向にそのムーブメントが発生する兆しは見えない(この辺りは日本のクリエイターが職人気質がちであることも要因の一つだとも思うが…)。

今は「あの庵野がまた面白そうな作品作ってる!」と関心を持つ層が大多数かもしれない。今後はこれを機にいろんなクリエイターが国産特撮作品を制作し、再び黄金期が訪れてくれないだろうかと、しがないファンながら願ってやみません。

まとめ

この映画の最も優れたポイントは、「ウルトラマンを初めて見た時の衝撃やある種の気持ち悪さを今の世代が追体験できるようになっているところ」だと思う。今でこそ膨大な数の作品があるウルトラマンシリーズだが、「銀色の巨人が突如地球に飛来し、何故か人間を怪獣や宇宙人から守ってくれる」という、奇怪だけどアツい原体験を、作中の禍特対メンバーとリンクしながら追うことができる。

そして、地球に降り立ったウルトラマンがなぜ怪獣や外星人を退治し人類を助けてくれるのかという疑問に、「なんか人間のことが好きになっちゃったかも」というめちゃくちゃプリミティブな理由なのが愛おしくないですか?ウルトラマンは神ではなく、何故か人間のことが好きな、どこかかわいくてかっこいいヒーローなんですよ。

気になるポイントもいくつか列挙したが、これは僕が面倒くさい特撮オタクであるが故のもので、今までウルトラマンシリーズを追ってきた人にも、今作で初めてウルトラマンに触れる人にも、ウルトラマン映画として決定版たり得るめちゃくちゃ面白い作品ですよ!ぜひ劇場で見てほしい。

それでは。

投稿者プロフィール

大トロゼウス
大トロゼウスライター、デザイン担当
音楽ブログ『ROCK UTOPIA』を運営するブロガー。

音楽と酒で夜な夜な奇声をあげています。