スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム

世界中でメガヒットを叩き出しているようですね。全米での興行収入は7億ドルを突破し、歴代3位に躍り出たらしい。『アバター』が公開から9カ月と10年の再上映で積み上げた累計興収を、「スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム」は60日間で塗り替えた。コロナ禍でこれですよ。いかに今作がイカれてるかがわかる。実際に観てわかったけど間違いなく最強の映画です。加点方式で言うと8000億万点。丸2日くらい放心状態になりました。

先日、公開日にレイトショーで見てあまりの衝撃に偏差値15くらいの記事を書いたんですけど、あれから2か月近くが経ち、さらに2回見てようやく心が落ち着いてきたのでちゃんとした感想を残しておこうかなと。がっつりネタバレもしていくので未見で一切のネタバレを排除したい方はブラウザバック推奨です。正直ネタバレ後に見に行ってもめちゃくちゃに楽しめると思いますが。

一言で言うと、今作のテーマは”救済とオリジン(原点回帰)”だと感じた。

あらすじ

前作『ファー・フロム・ホーム』のヴィラン「ミステリオ」の策略により、スパイダーマン=ピーターパーカーであること&ピーターは善良なミステリオを殺害した犯人だというフェイクニュースが全世界に広まってしまう。いまや世界一の有名人となってしまったピーターの自宅にはパパラッチが張り込み、登校するだけで大勢の視線を浴びるようになった上に、スパイダーマンであることを理由に恋人のMJ・親友のネッドとともに志望校のMITを不合格にされてしまう。まともに日常生活すら出来ない状況を打開したいピーターは、アベンジャーズの戦友の魔術師ドクターストレンジに「皆に自分のことを忘れさせる」呪文を依頼するが、色々あって魔術は失敗。時空が裂け”マルチバース”の扉が開き、並行世界の地球からグリーンゴブリン・ドックオク・エレクトロなど過去スパイダーマンに登場したヴィランが現れてしまい…。

今作のポイント

①総集結

予告の通り、今作ではサム・ライミ版スパイダーマンシリーズ(2002年~)、マーク・ウェブ版アメイジング・スパイダーマンシリーズ(2012年~)のヴィランが時空を超えて大集合する。

ヴィラン一覧

・グリーンゴブリン

予告映像より

「スパイダーマン」に登場。大企業オズコープの社長であり科学者でもあるノーマン・オズボーンが、実験用の身体能力増強剤を服用した副作用による悪の人格。狡猾で非道。緑の仮面とコスチュームに身を包み、グライダーからボムを投げ込むなど卑劣な攻撃を繰り出す。

・ドクター・オクトパス(ドック・オク)

予告映像より

「スパイダーマン2」に登場。背中に装着していた危険物取扱用の金属製触手型アームが実験事故により暴走し、人格を乗っ取られた天才物理学者オットー・オクタビアス。自身の核融合実験を何としても成功させる執念に憑りつかれている。

・サンドマン

予告映像より(中央)

「スパイダーマン3」に登場。素粒子実験場の分解装置に入り込んでしまい、体の分子が全て砂状になってしまった脱獄囚フリント・マルコ。全身を巨大な砂人間に変え、パワー一点張りの攻撃でスパイダーマンを苦しめる。

・リザード

予告映像より(下部)

「アメイジング・スパイダーマン」に登場。事故で失った右腕を再生させるために爬虫類の研究を行っていた科学者カート・コナーズが、試験薬の影響によりトカゲ人間へと変貌してしまった。超人的な身体能力と再生能力を持つ。科学者多いな。

・エレクトロ

予告映像より

「アメイジング・スパイダーマン2」に登場。オズコープに勤める電気技師マックス・ディロンが、事故により電気ウナギの実験用水槽に落下し電気エネルギーを操る特異体質となった姿。不気味だったアメスパ2の時と比べキャラデザが原作寄りになりめちゃくちゃかっこよくなってる。原作漫画でも最強クラスのキャラで、アメスパ2でもかなりの強敵。


そして、なんとスパイダーマン2人もオリジナルキャストで出演する。

メイキング映像より

20年前、当時小学生だった自分が映画館で見たトビー・マグワイアが、アンドリュー・ガーフィールドが、あの時のコスチュームのまま現れるのだ。アンドリューが現れるシーンは僕が鑑賞した3回とも観客の驚きの声が漏れているのが聞こえた。そりゃそうだよな。二人とも年齢を重ねて老けていたのがまた良かった。

②メイの死

前作・前々作とピーターを明るく献身的にサポートしつつ、ハッピーと”一夏の過ち”を過ごすなど本シリーズを盛り上げる影の立役者ともいえるメイおばさんが中盤、グリーンゴブリンとの戦闘に巻き込まれ命を落としてしまう。気丈に振る舞い、常にピーターの良き理解者であった彼女は、致命傷を負いながらも「あなたは間違っていない」「大いなる力には、大いなる責任が伴う」と遺す。初代三部作・アメイジング二作でどちらもベンおじさんがそれぞれのピーターに託した言葉だ。ついさっきまで冗談を言っていた肉親が死にゆく中、スパイダーマンの指針となる大切な言葉を口にする。何度も見てきたシーンだが、何度見ても形容し難いほどに悲しい。

③ヴィランのcure・スパイダーマンのcure

今作は、MCU次元に来てしまったヴィランたちを元の世界に戻すどころか、亡きトニー・スタークの遺したファブリケーター(何でも解析し製作できるトンデモマシン)で作ったデバイスや解毒剤で彼らをcure(救済)しようとスパイダーマンズが画策する。これまでのように敵として倒すのではなく、彼らから悪の人格を取り除こうとするのだ。トビーピーターもアンドリューピーターも出来なかった救済を、スパイダーマン全員の力で成し遂げようとする。この構図にグッときてしまう。

しかもそれに留まらず、スパイダーマンの救済もしてしまうのだ。

アンドリューピーターは恋人グウェンを救うことができなかったが、今回は当時と全く同じシチュエーションで落下するMJを助ける。しかも、あの時と違いウェブではなく両手で抱きかかえて…。
トビーピーターはトムホピーターがとどめを刺そうとするゴブリンの間に入って、身を挺して彼を守る。しかも、あの時と同じグライダーによる死を避けるために…。

人の道を外れてしまったヴィランだけでなく、スパイダーマンたち自身の持つ闇へすら踏み込んでいくその描写に、どうしようもなく心が震えてしまった。

④スパイダーマンの”オリジン”へ

これまでのMCUにおけるスパイダーマンはアベンジャーズの一員だったため、突然宇宙に飛ばされ宇宙人たちと戦ったり、今作では別次元から到来した敵と戦ったりと非常に広大なスケールだったけど、今作ラストでスパイダーマンのオリジンとなる”親愛なる隣人”へと原点回帰を果たした。制作会社の契約関係等メタ的な要素はあるにしろ、新たな旅路をこれからも見届けたい。

好きシーン

◆ピーター1~3たちの談笑

決戦前に三人のピーターが談笑するシーン。アンドリューに「君は”アメイジング”だ」と称賛するトビーとか、トビーの腰のストレッチを手伝うアンドリューとか(当時噂となっていた「腰痛が原因でトビーはスパイダーマン2を降板する」というデマの精算)、トビーの手から直接出るウェブに興味津々なピーター1&3とか、戦いの直前に二人に「I love you」と伝えるアンドリューなどなど全部最高だった。ちなみに最後のはアドリブらしい(キョトンとした二人がThank youと返すのも含めて最高)。

◆自由の女神の盾崩壊

自由の女神に平和の象徴として取り付けられたキャプテンアメリカの巨大な盾が戦闘中に崩壊するシーン。「アベンジャーズから離れ一人のヒーローとして生きていく未来」を示唆していて痛快だった。

◆落下するMJを救出

予告映像より

一番震えたシーン。あの時の悔しい思いを、別の大切な人を救うことで少しでも救われたならこれほど嬉しいことはない。亡くなった人は戻ってこないが、目の前の人を助けることはできる。

総評

この映画の最も凄いところは、「過去作のスパイダーマンが全員そのまま登場する」というある種誰でも思いつく妄想を本当に実現してみせたことだと思う。

初代三部作とアメイジング二部作にはどちらも根強いファンが多くいるものの、当時はリブートまでの期間が短くマルチバースの下地が不十分だったのもあり、人気が浸透しきるに至らなかった印象だった(個人的にはどれも違った良さが詰まった作品たちだと思うが)。
それでも、過去作を黒歴史とせずリスペクトをこれほどふんだんに込め、20年後に全てを肯定するなんて、並々ならぬ努力と苦労があったことだろうと思う。言うなれば”究極のファンサービス映画”であるがゆえに、映画的な技巧やシナリオの精緻さに特段優れてはいないという批評があるだろうけれど、それとこれは別。これで興奮しないファンはいないだろうと。

予告の時点でスパイダーマン1人に対し向かうヴィランたちの動きが不自然だったので、スパイダーマン全員が登場することは想像に難くなかったけれど、いざ実際にスクリーンでトビーとアンドリューが出てくるとまともではいられなかった。全身の鳥肌が総立ちした。できれば大声で叫びたいくらいだった。

今作は内なる悪に打ち克つための映画である。

スパイダーマンシリーズをはじめとするアメコミ映画は基本的に若く見た目の良い俳優がヒーローを演じる一方で、敵役は皆不遇の中年男性であるケースが多い。不幸にもヴィランとなってしまっただけで、道を誤らなければ本質的には使命感が強く信念に燃えるような人々だ。そんな彼らに、今作では救済のチャンスを与える。これは過去スパイダーマンシリーズは勿論、あらゆるヒーロー映画が成し得なかったことだ。昨今のキャンセルカルチャーや、レールを外れてしまった人々へ向けられる世間の冷たい眼差しと否が応でもリンクせざるを得ない。

そしてスパイダーマンたちも同様に、彼らへの救済を通して自身のトラウマを超克する。始まりがトムホピーターのエゴであるとはいえ、皆が抱える過去を平等に救うどこまでも優しい映画だと思う。

スパイダーマンは元来、ティーンエイジャーが背負うにはあまりに重く悲しい過去を持つ孤高のヒーローで、トビー版・アンドリュー版でもそうした背景が描写されていたのと比較して、トムホ版ではこれまでと違い青春もののからっとした空気感を纏った作品だった。ベンおじさんの死は描写されていないし、メイおばさんとの関係も親しい友人のよう。学校でいじめられているわけでもなければ、なんならMJと両想い。FFHで正体が全世界に晒された点を除けば、これまでのスパイダーマンたちに比べて恵まれすぎているとも受け取れる。

だが結果的に、彼を知る全ての人々からピーターに関する記憶が消されてしまった。ピーター自身の行いが起点となっているとはいえ、これまでのスパイダーマンシリーズの中でも最も不遇な落とし前だ。前途有望な若者にとって、失うものがあまりにも大きすぎた。

だがそれでも、彼はスパイダーマンをやめない。

ラストでは記憶を消されたMJとネッドを見かけるも、自分がピーターであることは告げず、これまでメイおばさんと住んでいた家から賃貸のアパートで一人暮らしを始め、自作のスーツに身を包み、雪が降り頻るニューヨークで”親愛なる隣人”として街を駆け抜けてゆく。新たな地で、新たな敵と戦うために。マスクの下に素顔と昏い過去を隠しながら…。そのあまりに美しく気高い姿に、これまでのすべてのスパイダーマンへの賛辞と、新たな物語の予感を胸に秘めながら映画館を後にした。

今作でホーム三部作は完結する。が、次回以降に繋がるであろう伏線も多く散りばめられていた(黒人のスパイダーマンの示唆や新たな敵「スコーピオン」「クレイヴン」のシルエットを確認)。今後は新スパイダーマンとして新たな歴史を刻んでゆくのか、ニューアベンジャーズのメンバーとなるかはまだわからないが、今はこの余韻に浸っていたい。2002年から20年に及ぶ実写スパイダーマンシリーズにおいて、完璧すぎる集大成だった。2022年ベスト映画なんて生ぬるいものではなく、スパイダーマンとして、ヒーロー映画として、ビルディングスロマンとして素晴らしい映画。一生涯忘れられない、魂に刻まれた最高の作品だった。

ありがとう、スパイダーマン。ありがとう、ピーターパーカー。