漫画原作の大人気アニメ、ゆるキャン△
2018年、2021年と2期にわたって放送された今作。
実写ドラマ化もされ、2022年には映画の公開まで控えている。
まさに昨今のキャンプブームの火付け役であり、かつ立役者と言っても過言ではない。
あらすじとしては、山梨に住む女子高生たちがゆるくキャンプを楽しむだけ、という、観るひとが観れば退屈してしまうような内容であることは否めない。
それでもここまでたくさんの人に愛され一大ムーブメントを起こしたのには、それだけの理由がある。
それを一言で表すのはとても難しいけれど、あえていうならば、眺めているだけで元気をもらえるのだ。ほんとに。
かく言う私もアマゾンプライムで観放題なのをいいことに、繰り返し、キャンプを楽しむ女の子たちを眺めては、にやにや、もといにっこりとしながら癒されている。ちなみに当方、オタクではない。斉藤恵那ちゃん推しのただの社会人である。
『ゆるキャン△』は、日々、社会というディストピアに身を置く我らの疲れきった心身を解きほぐすだけのものすごいパワーを持っている。
そう、『ゆるキャン△』は、社会にくたびれたサラリーマンを癒し、元気にしてしまう魔法のようなアニメ なのである。
では、その魅力を紐解いていきたい。
※以下ネタバレあり
▲解像度の高いキャンプ描写▲
まず伝えたいのが、キャンプ描写の解像度の高さだ。
キャンプシーンが魅力的かつとてつもなくリアル。
テント設営の面倒さだとか、シュラフ(寝袋)の寝心地の良し悪しだとか、キャンプ飯の美味さだとかが、とても丁寧に描かれている。
「なに引きこもりオタクがキャンプの描写について知ったような口を聞いてるんだ?」
そういうことを言いたくなる気持ちはわかるが少しだけ待ってほしい。
一応断っておくと、子どもの頃の私はボーイスカウトで野営のノウハウについて実践から学び、夏休みには毎年欠かさず家族でキャンプに出かけるようなキャンプっ子だったから、決してテキトーこいてるわけではない。
どうして今こんなふうになっているのかこちらが聞きたいくらいだ。
ちなみに大人になってからはほとんどキャンプには行っていない。虫とか怖いので…。
さておき、私のような、キャンプ経験がありながらそれほどキャンプにハマらなかった大人が、このアニメを観て「キャンプいきたいな」と思えるほどにはキャンプが魅力的かつ精細に描かれている。
景色の描写も本当に綺麗。
冬キャンプがメインだから虫が出てこないところもいい。
キャンプグッズの解説なんかもあって、実際にキャンプをやってみようかなという層にも親切なつくりになっている。
オシャレグッズや便利グッズの紹介、価格帯の説明なんかもさらりとされていて、暇と金をもて余したサラリーマンなんかにはウケそうだし、さすがキャンプブームの火付け役になるだけのことはある。
▲キャラクターの関係性▲
ゆるキャン△には、メインのキャラクターとして5人の女の子が登場する。
△志摩リン(CV:東山奈央)△
お爺ちゃんからキャンプ道具をもらったことをきっかけにキャンプにハマるソロキャンパー。
なでしこと出会って初めて、誰かとのキャンプを経験する。
閑散とした冬季にしかキャンプをしない。
△各務原なでしこ(CV:花守ゆみり)△
富士山を眺めるのが好きな無邪気で活発な女の子。
リンとの湖畔での出会いからキャンプに惹かれ、高校で野外活動サークル(通称:野クル)に入部する。
誰よりも美味しそうにごはんを食べる。
△斉藤恵那(CV:高橋李依)△
リンの友達。マイペースな自由人。
寒いのが苦手でだらだらと過ごすことが大好きな帰宅部員ながら、キャンプにも少し興味を示す。
人づきあいにあまり積極的でないリンのことを理解し、さりげないアドバイスをすることも。
飼い犬の名前は「ちくわ」。飼い主と同じく寒いのが苦手。
△大垣千明(CV:原紗友里)△
「キャンプがしたい!」と、あおいと一緒に野クルを結成。
賑やかで快活な性格で、真っ先に楽しいことを持ってくる行動派。
△犬山あおい(CV:豊崎愛生)△
関西なまりで話すおっとりとした野クルメンバー。
さりげなくみんなを気づかうまとめ役ながら、普段から息をするようにホラを吹く。
この女の子たちの関係性が本当に絶妙ですばらしい。
アニメにありがちな「はじめからみんな同じくらい仲が良い」みたいなある種、理想の押し付けのような前提がない。
それなのに、お互いを尊重した“理想的な関係性の深まり方”がそこにはあって、共感と憧れを同時に享受することができる。
たとえば、リンはソロキャンパーであり、しかも野クルの“ノリ”に苦手意識を持っていたが、野クルのメンバーも薄々それに気づいているからか無理にキャンプに誘うこともしなかった。
しかし、なでしこがリンと仲良くなったことをきっかけに、野クルメンバーとリンの関係性も少しづつ変化していく。
そういう状況でリンの理解者、斉藤恵那のさりげないアドバイスもあり、ようやくリンが少し心を開く。
その心情の動きにはどこか覚えがあるようなリアルさがあるし、そんな関係性の深まり方に憧れすら抱くことができてしまう。
しかも、一緒にキャンプをしたからといって、安易に「全員野クルのメンバーになる」みたいな単純な話にはならないところがまた良い。
リンは相変わらずソロキャンパーだし、斉藤恵那は帰宅部のままだ。
仲が良くなったからといって同じコミュニティにくくるという発想に縛られないところも、観ていて窮屈さを感じない。
なにより、一人でのキャンプも、みんなでわいわいやるキャンプも決して否定することなく、それぞれに別々の良さがあることを描いているのが上手いし、本当に穏やかな気持ちで観ていられる。
他にも、仲良くなるにつれて変化する名前の呼び方にもほっこりするし、某メッセージアプリ風のSNSでのやりとりも、無理に笑いに走ってるでもなく、キャラクターそのものの人間性が垣間見れておもしろい。
この魅力的なキャラクターの関係性に、ゆるキャン△の不思議な癒しパワーが凝縮されているのかもしれない。
▲大人たちの優しさ▲
ゆるキャン△の魅力は、登場する大人たちにも表れている。
そもそもの前提として「女子高生が閑散期である冬のキャンプ場でひとりもしくは少人数でキャンプを楽しむ」という行為にはそれなりの危険がつきまとう。
キャンプ描写がリアルなだけに、そういった危険を無視して物語が進むのは無理があり、自然と周りの大人たちの理解やサポートが不可欠となる。
その点、ゆるキャン△に登場する大人たちは、それはもう信じられないくらい優しいのだ。
2期冒頭には、リンがはじめてひとりでキャンプをしたときの様子が描かれる。
これがなかなか思うようにはいかず、イメージしたとおりのキャンプ飯にもありつけない。
そこにかかってくるリンの母親からの電話。
強がってご飯にありつけてないことを言わずにぼかすリンに、「カバンに非常食をいれておいたから足りなかったら食べて」という母。
もう、このやりとりだけで、リンママが口に出さないだけでどれほどリンのことを気に掛けているかが伝わってきてしまい、涙がちょちょぎれてしまう。
そりゃそうだ。娘が突然ひとりでキャンプするなんて言い出して、心配じゃないわけないのだ。
それでも「そんな危ないことはやめなさい」と頭ごなしに否定するでもなく、過保護になんでもやってあげるでもなく、リンの性格を理解しているがゆえのカバンにカップ麺を潜ませるという絶妙な優しさ。見事という他ない。
もちろん同じことはリンの父親やお爺ちゃんにも言える。
なでしこにも、不愛想ながらなんだかんだいつも協力的な姉がいるし、野クル顧問の鳥羽先生は、本気で生徒のことを考えてくれている。
旅の途中で出会う大人たちも、キャンプ場の管理人も、みんな良い人。素敵だ。
▲お気に入りのシーン▲
最後にお気に入りのシーンの紹介をさせてほしい。
ゆるキャン△第2期、第7話「なでしこのソロキャン計画」より。
なでしこがソロキャンの良さを語るリンに影響され、「自分もソロキャンに挑戦してみたい」とリンに相談に来るシーン。
リンは豊富な経験から、なでしこにソロキャンの心得を伝授する。
さっそく週末にソロキャンデビューする決意を告げて去っていくなでしこに、「やれやれ」とリン。
そしてひとり残された図書室で、ぼそりと信じられない独白。
――「私も週末、バイト休みだったんだけどなあ」
え!!?
あの!!
孤高のソロキャンガールのリンちゃんが!
ほんとはなでしことキャンプに行きたかったって!?
しかもなでしこにソロキャンへの興味を抱かせた張本人であるリンちゃんには絶対に口にできないやつ!
むりむり!しんどい!
と、大興奮しながらシャツの胸元を握りしめて倒れこんでいたら、なんだか元気になってきました。不思議。
ゆるキャン△、しゅごい。
それでは。