indigo la End「夜行秘密」を全曲聴きほどいた──糸の音

indigo la End「夜行秘密」を全曲聴きほどいた──糸の音

いい加減にしてくれ川谷絵音。
最高傑作をほいほい出すな。

川谷絵音の活動を追ってみれば、ものすごいペースで絶えず最高を更新しつづけていて、とりあえず人ひとりが物理的に生み出せる生産量を明らかに超えている。
川谷絵音名義の名曲に対して川谷絵音の数が足りない。聴く側の耳の数も足りない。なんで聴くペースを作るペースが上回るんだ。

そんな文句のひとつもいいたくなるような超名盤「夜行秘密」が、この度indigo la Endの手によって世に放たれた。

収録曲は全14曲。全部名曲。
コンセプトは「夜」
情緒を才能でぶん殴ることしか考えてない。
聴く方の身にもなってくれ。

ぼろっぼろになったメンタルを落ち着かせるためにも、一曲一曲を文章の形にして消化していきたい。

夜行

indigo la Endのアルバムの1曲目は名曲ぞろいだけど、この曲も例に漏れずド名曲。

目を閉じた夜
もう少しだけと思うほど
助走もなく奪われる熱

ここで火花が散るように鳴り響くアンサンブルの気持ち良さで、このバンドの個々の演奏技術の高さが際立つ。

夜の先に
春はなかったみたいだ
夜行秘密
一人で握った

そしてこの「夜行秘密」というアルバムの救えない部分がこのラストに凝縮されていて、かつこの絶望的なアルバムの象徴的なイントロダクションとなっている。
誰にも知られることのなかった夜の恋が綴られていく。そんな旅のはじまりの予感が漂う。

バンドとしての”今”を表現しつつ、アルバムの導入としての役割もこなす、完璧な1曲目。

夜風とハヤブサ

夜と夏と雨。indigo la Endというバンドの8割を構成する要素がこの曲には詰まっている。

あなたが好き
私がフォトグラファーだったら
夏って感じで切り取るのに

はやぶさみたいな恋が胸に焼き付いて離れない痛々しさが、こんな綺麗に表現されてしまうことがあるなんて。
昭和感のあるシティポップを再構築して令和に持ってくるセンスがこれぞ川谷絵音。
聴けば聴くほど名曲。

華にブルー

この曲に現れる二人はきっとすれ違っている。

いつも好きとは言えないけど
多分これでいい

きっとこれでいいはずないって心のどこかで思ってる。
この曲の解釈は人によって分かれるかもしれないけど、二人の気持ちがこんな綱渡りみたいなバランスで成り立つことなんて、正直考えられない。
だからこそ。

こんな苦味は味わえない
やっぱあなただけ

このラストの歌詞と切ないアウトロには後悔がにじんでいるようにしか聴こえない。

チューリップ

「終わり」の情景のリアルさに心臓が割れそうになる。聴く失恋VR。
華にブルーの次にこんなの持ってこられて咽び泣かずにいられるやついないって。

特にここ。

過去にならなきゃ2番目でも構わないって
口を開こうとしたけど
閉じてしまったものは
もう戻らなくて

これを聴いた人がかつて、もう過去になってしまった人の袖を掴んでいたとしても、あるいはその人に袖を掴まれていたとしても、心に染みついたあれこれがうずくに違いない。
そしてしつこく同じメロディを繰り返してたのに、ラスサビのメロディの変化の潔さが、歌詞とリンクして「どうにもならないこと」を受け入れたように聴こえてしまって、なお辛い。

左恋

唄も演奏も良すぎて、なんというか、罪深い。特に後鳥のベースがエロい。

それはそうと、どうして人は素直に満たされることができないのか。
シロップ一個分の甘さだって捨てたもんじゃないし、ハッピーエンドも受け入れたらいい。
でも、それができるような男は端からナイトクラブなんかいかないし、ナイトクラブで終わりにできるわけがない。
ただ、この曲をライブハウスで浸るように聴いて酔いしれてしまいたい自分の本能は、いったいこの罪深き男と何がちがうのだろうか。そんなことを考えてしまって聴くだけで背徳感が生まれてしまう、けれどやめられない沼のような曲。

たまゆら

もう幸せにはなれませんと
筆ペンで記されたみたいだ

このワンフレーズでもう駄目。
これは、生きるのが下手くそな人のための唄だ。
幸せを追い求めているはずなのに、なぜか遠のいてしまう。
どこで間違えたのかがいつもわからない。
それでもまた幸せを追いかけるしかない救いの無さに寄り添う音楽。

フラれてみたんだよ

フラれてみたんだよ
試しに
解かれてみたんだよ
魔法から

聴いているだけで胸がチクチクしてくる。
いったい誰に対して強がっているのか。いいからかっこつけてないでぼろぼろになるまで泣いてくれ。その方が絶対に楽になるから。
でも、それができないんだよな。それもわかる。
インディゴの失恋ソングの本当に怖いところは、いついかなるときも上質な失恋体験にトリップしてしまうところ。爽やかな休日の朝だろうと、金曜の仕事終わりの高揚した夜だろうと、一瞬で失恋直後。
しかも女性視点の曲だろうと男女関係なく引きずり込まれるもんだからたちが悪い。

夜漁り

フラれてみたんだよからこの曲にいくのは反則。
もうこの初っぱな「グッバイ」の強がり方、フラれてみただけの人と同種。性別変えただけの同一人物まである。つらい。

もう会えない
夜を漁るあいにくの御心で

もう会えないけど夜を漁ってあいにく(会いに行く)の心で。
この切ない掛詞、美しすぎて、将来古文の教科書にでも載せませんか文部科学省。
それにしても川谷絵音、夜の使い方が多彩過ぎる。
夜を漁ったり、夜が曲がったり、いったいいくつの寝れない夜を過ごせばこの域にたどり着くのか。もしかして夜行性?

不思議なまんま

個人的に今回のアルバムで一番リピートした曲。
ワンコーラス目とツーコーラス目でサビ前のメロディ全然違うのに、どっちも最高のサビを演出してるのいったいなんなの。メロディ、つくりすぎて余ったの?カレーじゃないんだから。

そしてサビの中毒性がほんとにえげつない。
数回聴くだけじゃとても受け止めきれない。

明日も同じつなぎ目を
見ようとしても変わってて
奥に手を伸ばす勇気もないだろう
でもきっと生き抜いてる

どうにか明日を生き抜けるように、不器用に、そっと背中を押してくれる唄。

晩生

ひりつくような、攻撃的な音楽。
このアルバムの他の曲とは一線を画す。
胸が締め付けられて感傷に浸るような気持ちになってるところ、後頭部を鈍器で殴られるような曲。

一度は思ったことがあるだろ
自分じゃなくて良かったって

この時代に生きる中で当たり前に育ってしまう贅沢な幸福論に、川谷絵音が投じた一石が後頭部に当たったんだと思う。いたい。
ライブで聴き狂いたいきれっきれのアウトロで放心状態になること必至。

さざなみ様

惚れてばっか
マジで童

一人前の悲しみも味わえずに
いつだって寂しさ単品頼んじゃう

歌詞もメロディもこんな洒落た童貞の歌あります?
自然と体が揺れる心地よい音楽。

負けてばっかの人生の生き様くらいは評価してほしいと卑下交じりに嘆きたくなる気持ちもわかるのに、「思い上がるな」と言わんばかりのけっこう酷な神様。
前向きな歌詞で終わってくれるのが救い。

固まって喜んで

歌詞が難解。いったい何を言ってるんだ。
でもなぜか聴いてしまう。
こういう曲は無理に解釈しようとしないで音に身を任せて聴いてしまうのがいい。
「固まって喜んで」のフレーズが、コーラス含め多重の声で繰り返されているうちに、脳ミソがドゥービーしてハービーして固まって喜んでしまうから、音楽ってこれでいいのかもしれない。ちょうどしんどい曲聴きすぎて心が疲れてきたところだし。そろそろ休めるってさ。

夜光虫

この曲に関してはもう良すぎて語彙がぶっ飛ぶ。やばい。イントロのギターからド名曲の気配を漂わせてて好きが溢れる。

夜光虫をモチーフに切ない気持ちを描ききる力が強すぎて、してないはずの失恋体験まで植えつけられてもう無理。ハピネスの対義語、夜光虫だったのかもしれない。

サビのメロディのインパクトは、名曲ぞろいのこのアルバムの中でも随一。極上のメロディを浴びる体験はハピネスのはずなので夜光虫はハピネスの類義語でもあるのでは。語彙返せ。
とりあえず全員聴いて酔って溺れて泣け。

夜の恋は

かの名曲、夏夜のマジックと張る洒落たイントロ。

2人は1+1になってしまった

この切なさ100点満点のフレーズが低音えのぴょんヴォイスで響いたかと思えば、つづく高音えのぴょんヴォイスが耳を溶かす悪魔みたいな曲。

しかしこの歌詞の中の男は本当にどうしようもない、身勝手な男。
「僕のせいで終わった」のに「嫉妬させてよそのくらい好きにさせてよ」って自分がなに言ってんのかわかってるのかこいつ。「そのくらい僕を好きにさせて」と「そのくらい僕の好きにさせて」のめちゃめちゃ狂おしい身勝手なダブルミーニングじゃねえか。
この期に及んで「好きにならずにいたかった」?
なんちゅう自分勝手な男。
こうやってまず自分を守ろうとする情けない男には絶対になるまい。

そんなことをうそぶく男ほど、実はまさにそういう男だったりするから、「夜行秘密」という絶望が多くの人の胸に響いてしまったりするんだろうなと、誰のことでもないけど、ふとそんなことを考えてしまった。決して誰のことでもないけど。



以上、全14曲「夜行秘密」を語り尽くしてきたわけですが、いかがでしたか。
まだ聴いてない人も、もう聴いたって人もぜひ耳にindigo la Endの上質な音楽を流し込んでみてください。
ただし、絶対に夜に聴くことをおすすめします。ほんとに。朝聴いたりすると危ないから。

そしてなんと。

当サイトのエース、持田小夏さんも「夜行秘密」の全曲レビューを書いてくれています。本記事と同時公開です。

indigo la End「夜行秘密」を全曲聴きほどいた──夏の音
彼のことを知れば知るほどついに人類はクローンを生み出す術を知ってしまったのではないかと思う。ちょっぴり良いトリートメントをつけるのと同じくらいの頻度で良曲を生み…
maison-melancholia.com

女性ならではの視点から、独特の感性で解きほぐされる「夜行秘密」は必見です。ぜひ。

それでは。

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