彼のことを知れば知るほど
ついに人類はクローンを生み出す術を
知ってしまったのではないかと思う。
ちょっぴり良いトリートメントを
つけるのと同じくらいの頻度で
良曲を生み出し続ける鬼才、川谷絵音。

彼の多くの活動の中で私がずっとブレずに
溺れ続けているバンドindigo la End
彼等の最高傑作ともいえるニューアルバム
「夜行秘密」が発売されてから
平穏な日常がぐちゃぐちゃにかき乱されている。

前作の「濡れゆく私小説」が
満を持してお披露目された時
これぞ集大成、最高傑作だ、、と思っていたリスナーは少なくないはず。
私もその一人。
それが今回もしれっと最高傑作だったので
最高傑作が2作品生まれちゃうという
世にもおかしなことになりました。

ちょっと冷静に、
1曲づつ解きほぐしていくね。

夜行

期待を気持ちよく裏切るように
軽やかに始まるイントロ。
そんなメロディラインとは裏腹に
一人夜に取り残され春は来ない
そんな絶望的で潔いリリック。
サビ前のかすれる「でも」が
本当に泣いているようで心がキュッとなる。

夜の先に
春はなかったみたいだ
夜行秘密
一人で握った

曲の終わりのこのフレーズ。
2人だけの秘密とか
そんなドキドキするものじゃない。
1曲目にふさわしい
これぞindigo la End、という要素が
ぎゅっと凝縮されている作品だ。

夜風とハヤブサ

レトロでポップで艶やかなサウンド。
彼らには珍しく、リードがシンセ。
転調の仕方がずるくてやらしい、
とにかく聴いて。

私この前ね
秋になった記念に
唇を奪われたんだ
でもね、何にも感じなかったの

私は秋になった記念に奪われる唇を持ち合わせてないけどどうすれば手に入るの?
どんなリップ塗ればいいの?
Diorのマキシマイザー?????
すぐ買ってきます。

華にブルー

ほんのり昭和を感じるコード進行が
たまらなく愛おしい。
恋の苦味がもはや快感で
苦しいけど隣にいないとおかしい
そんな恋に依存する女子達を
今すぐ抱きしめたくなる作品だ。

もしも時が巻き戻って
違う人と出会っても
こんな苦味は味わえない
やっぱあなただけ


ところで
歌詞の中にチョコが登場するんだけど
カカオの苦味成分「テオブロミン」にはダイエット効果があると何かで読んだ事がある。
ねぇ、川谷絵音もしかして
苦い恋に溺れてやせ細っていく女の子の姿を揶揄してる?やっぱり君は天才なの、、?

チューリップ

この曲、苦手だ。
ちゃんと聴くと夜を超えられなくなる。
出会った頃の彼との関係に
少しずつ少しずつ
目には見えないくらいのズレが生じて
うまく交わらなくなってきた
そんな恋愛真っ最中の人は
絶対に聴くんじゃないよ。

でもこれだけは言いたい。
2番終わりのカーティスのギターソロ
indigo la Endの歴史上1番えっちぃです。
聴きたいでしょ??
聴きたくなっちゃうでしょ?
でもしんどい時は絶対聴くな。
この曲の犠牲者、何人も見てきたので。

左恋

車のエンジン音のような意表を突かれるオープニングに一気に引き込まれる。
ナイトクラブで一瞬一瞬のドキドキを楽しんでいたはずが
今回はいつも通りにいかず調子を乱される
そんな歌に聴こえる。

不実なとこがセクシー
危うい油で滑りたい

恋の海で溺れる、みたいな表現より
もっと後戻りできなそうな危うい油。
なんですか危うい油って、
扱いに気をつけないとうっかり爆発しちゃうんじゃないの、、、?

たまゆら

歌い出しに絶望する。
そんなセリフで始まらないでください。
聴けばわかるから試しに聴いてみて。
恋が盲目ってことも
割り切れない自分が悪いってことも
ちゃんと理解してる
随分と頭の良い主人公だ。

背負う程でもない罪
決められた尺度で生きてく
それが僕

たくさんの人がそんな小さな罪を小脇に抱えて、今日も懲りずに恋をするんだろうな。

サビの後ろでゆらめくカーティスのギターが
これまた猛烈にえっちぃです。

フラれてみたんだよ

タイトルから察してほしい。
4曲目のチューリップ同様胸がつまる作品。
夜に1人で聴くなんてしちゃだめだよ
責任はとれないので。
「別の誰か」の存在に気づいて
まだ熱を帯びたままそっと身を引く
どうしようもなく強がりな女の子の話。
いいかい、ぜったい1人で聴かない事。


そして曲のラスト

張り詰めて丸を食った
味はしなかったな

丸。何にでも例えられる丸。
満ちた月、辛さを和らげるお薬、
はたまた物語のおわりに打たれた句読点?
丸が一体なんなのか、みんなで腰掛けられるような三日月の夜にとことん語らいたい。

夜漁り

消えそうで消えない
泡(あぶく)のように始まるイントロ。
午前2時に思い出してしまう「誰か」がいる、そんな人にぶっささる一曲。

ああ、軽いキスも重いキスもしたけど
言ったそばから
君とはもう
会えない

軽いキスだけの関係ならこんなに夜をさすらう事などなかったのだろう。
重いキスも知ったのにもう会えない、
そんな相手に落ちる夜の底は途方もないのだ。
そして曲は以下のフレーズで幕を閉じる。

流体みたいだ

流体って、少しの力を加えると容易に変形する気体や液体のようなもの。
この川谷絵音らしい一節は

「あなたの事になるといとも簡単に
私が私でなくなってしまう」
という事を揶揄しているのではないかと
勝手に解釈しては悶絶する、を繰り返している。

不思議なまんま

夢の中で聴いているような
それともシャボン玉の中で聴いているような
いろんな音が交差する、響きが耳に心地良い作品。
夜行秘密の全14曲中、私の中で恋愛ソングに聴こえない曲が2曲だけある。
これがそのうちの1曲。

騒がしい街で口笛を
耳をすました誰かへと
これから変わっていくように
祈りの音よ静かに鳴って

この歌詞がたまらなく好きで
たまらなくしんどいんだけど
ここでの「口笛」って、
助けを求める宛先のないサインのような気がしてならない。

不思議なまんま
生きてく向こう岸が
明るい保証はないけれど

今までもこれからもきっと
あらゆる事を”不思議”だと思う気持ちと
共存して、時には割り切って
トキメキに変えて生き抜いていくんだと
今日も少しだけ背中を押されるのだ。

晩生

こんなindigo la End知らない、、、。
激しいしクールなんだけど
儚さもところどころに散りばめられてる
切なロックでとにかくむちゃんこ好き。
まるでボーカル含め全員が
一発撮りで好き勝手思い思いの演奏を
寄せ集めた塊みたいでドキドキする。

曲のラスト1分半、渾身の後奏に痺れる。
2番終わりの静かになるところ
メタリカのEnter Sandmanかと思っちゃった。いつからヘヴィメタルバンドになったの?

あと個人的にこの曲の後鳥さんのベース
求婚レベルでセクシーでした。
みんな心して聴いてね。

さざなみ様

ピアノとドラムのみで始まるイントロ
控えめに言って好きなんだけど??
そのあとカーティスのギターと同時に
えのぴょんの声が重なるように入ってくるの
大好きなんだけど??怒
ちなみに恋愛ソングに聴こえない2曲のうち
もう1曲がこれです。

「夏夜のマジック」みたいに
ライブで手を掲げて揺れる絵が浮かぶ。
みんなで一緒に聴くの、楽しみだね。

恥を知った
不幸はまだ価値を知らないだけ
何もしてないだけ
さざなみを思い出した
生きてみたくなったんだ

不幸を感じるのは、
まだ深みを知らないから。
まだまだ人生ビギナーって事か。
じゃあもっと味わい続けるしかない。
恋愛の苦さだけじゃなく、人生の深みも教えてくれるのか、川谷絵音。
君はついにここまできたのね。

固まって喜んで

トゲトゲしいルサンチマン
華々しいスーパースター
構図はさして問題じゃないよ
ハービーハービーハービー

歌詞の奥が深すぎない?
聴き手に分かってもらおうとしてないよね、、?
人生たぶん1周目の私には難しくて
理解できませんでした。
ただ、ただ、和テイストなサウンドが好きってことだけははっきりと目を見て言える。
人生2周目の人におすすめの1曲。

夜光虫

泣き虫で弱虫な自分の様を
”夜光虫”と歌い飛び回る、そんな作品。
サビを重ねるごとに少しずつ変化する夜光虫の飼育方法。

切ない想いは
心の中で旅立たせない夜光虫さ

1サビ

切ない想いは
心の中で飼い慣らせない夜光虫さ

2サビ

切ない想いは
心の中で影を育てる夜光虫さ

ラスサビ

飼育しきれず、挙句の果てに
分身を育て切なさを分散させようとしているみたい。
そんなことをしても
楽になれるわけじゃないのにね。
人は誰しも心の中に
夜光虫をこっそり飼っている。
私の子はどんな色をしているのだろうと考えてはワクワクしてしまう。

夜の恋は

えのぴょんが「あまりにも苦しい新曲」だとつぶやき発表前からファンをざわつかせていたこの曲。
夜行秘密のラストを飾るに相応しい
救いようのない切なさと苦しさのスパイスで
もうこれでもかって刺激にお腹が痛むので
しばらく有給いただいてもいいですか。

嫉妬させてよ
それくらい好きにさせてよ させてよ
あなたを見るたび痛くなってしまうくらい
好きにさせてよ

なんてこと言うんだ、と狂いそうになるが
我らの川谷絵音はいつだって天の邪鬼なのだ。
もうすでに痛くなるくらい好きなのに
わざとこんな事言ってるんだとしたら
ちょっと抱きしめてもいいかな、まるごとぜんぶ。
ちなみに天の邪鬼って訳じゃないなら
ちょっと廊下に立っててください。



はぁ。やっぱり長くなっちゃった。
ここまで読んでくれてありがとう。
この大傑作のアルバムはこの先もずっと
リスナーと共に色や形を変えながら
ずっと愛されていく作品に違いない。

今回は女性目線でお届けした全曲レビュー。
実は我らの代表、言葉選びの天才”いと”も
男性目線の全曲レビュー綴ってくれています。
彼ならではの右斜め上の考察に
思わず唸ること間違いなし。ぜひに。

「切なさ」や「痛み」も
いつか愛しいと思えるように
私は今日もそっと耳に夜行秘密を、
心にindigo la Endを添えて生きていきたい。